出合い  

  私が光田英一(みつたえいいち)*1さんのことを知ったのは、島田陽子*2著 「金子みすゞへの旅」(写真)の中の記述でした。島田さんは、昭和62(1987)年6月、仙崎を初めて訪れ、その時島田さんを出迎えたのが光田英一さんと山田秀雄*3さんだったのでした。
2002年からみすゞﾍﾟｰｼﾞを始めた私は、もちろん光田さんに会った事はなく、この本で光田さんのみすゞにかける思いを知ることになります。仙崎に来た島田さんを、光田さんが出迎えて案内する様子を同本より抜粋してみます。

 『光田氏は、これまでに何度も同じ説明をしてこられただろうに、次第に熱の入ってくる様子で案内して下さる。(中略) 遠く住む矢崎節夫氏によってはじめて(みすゞの)存在に光をあてられたことを、もしかすると光田氏は 同郷人として申し訳なく思っておられるのではないだろうか。氏が、みすゞの詩や人間性のよき理解者であることは、「思ひでの記」に書かれた文章や、昨夕と今朝の短い会話からも知ることが出来る。』

 この中にある「同郷人として申し訳なく」というニュアンスに近い言葉が、みすゞ全集出版に先立つ「露」の詩碑建立の「趣意書」の中にもみられます。
『・・私たち郷土のものがはじめて「みすゞの生涯と作品」について、「矢崎氏」から教わったのは昨年の三月下旬のことであります。今まで知り得なかったことを恥じ、以来郷土人として及ばずながら、氏の調査研究のお手伝いをさせていただきました。・・』と長門市郷土文化研究会及び長門みすゞの会連名で書かれています。この時の郷土文化研究会会長は羽仁雅助さん、みすゞの会会長は光田英一さんなのですが、みすゞと同郷の者としての思いが伝わってきます。

 以下は残っている資料を元に、みすゞ甦り後の第一功労者である光田さん自身のことや、他の人の記事と重複するかもしれませんが、みすゞの甦り中の出来事などを、書きとめていこうと思います。

*注1) 光田英一氏(大正9=1920年2月16日生〜平成11=1999年1月9日 78歳没)
*注2) 島田陽子氏 大阪万博のﾃｰﾏｿﾝｸﾞ「世界の国からこんにちは」の作詞で知られる。(昭和4=1929年6月7日〜平成23=2011年4月18日) 87歳没。
*注3) 山田秀雄氏(大正12=1923年9月22日〜平成18=2006年2月9日) 82歳没。

  光田家の墓(西覚寺)  

　かつて光田家はみすゞの生家にも近いみすゞ通りにあり*1、姉はそこで生まれ父の仕事の都合で、光田さんと妹及び弟の英俊さんは九州の若松で生れました。その後 光田さんは旧制中学卒業まで九州で過ごし、山口師範を卒業して教員免許を取り、初めは下関の小学校等で教壇に立ちました。後に長門に戻られたときは実家に住んでいた時もありました。

　そして昭和30(1955)年4月(35歳)からは、仙崎小学校でも7年間教えています。写真は私が光田家の墓所を捜していた時のものですが、たまたま案内していただいた方が光田さんの教え子で、「優しい先生でした。」と話してくれました。

 仙崎小の後 光田さんは俵山小、日置(へき) 小で教え、当時豊浦郡だった角島(つのしま) 小には校長職で赴任し、最後は同じく豊北町の滝部(たきべ)小にて定年退職されました。 
 そんな職歴もあって、後年みすゞ会やみすゞ顕彰会に携わった光田さんには、学校や文化講座から「みすゞの講演」や児童の「みすゞ感想文」の審査等、いろんな依頼も来るようになりました。

*注1) みすゞの甦った昭和59年5月頃、光田さんは先祖の戸籍の屋敷番号等を調べ、みすゞの出生地の手がかりを得ようとしていたメモが残っている。

 豊北町立角島小学校 (昭和41年5月撮影)

  左写真は光田さんが昭和46(1971)年4月(51歳)〜昭和51(1976)年3月の5年間、校長として赴任していた豊北町立(現・下関市立)角島小学校の、在りし日の木造校舎です。(ただし左端にある講堂の建物は赴任前年の昭和45年、体育館に改築されています)

 角島は響灘の沖合にある島で、平成12(2000)年に角島大橋が出来るまでは、船で渡るしか無かった孤島で、光田さんも職員宿舎で暮らし週末に長門に帰ると、特牛(こっとい)港から朝一番の連絡船・角島丸に乗って帰っていたようです。
 
 現在(2013年)の角島小学校の児童数は33人とのことですが、光田さんの時代は110名程だったようです。海に囲まれた角島小学校は島の暮らしと一体で、ウニ漁の解禁日の午後はお休みとか、児童の見学旅行の帰りの連絡船が欠航したこともあったり、光田さん自身も島の人から魚つりなど教わったりと、島の生活にすっかりなじみ地元新聞の寄稿欄にもその思い出を寄せています。

 ※写真はある方のご厚意にてお借りしました。有難うございました。

「惜陰碑」と校歌    

　こちらの写真は、昭和50年度(光田さんが角島を去る最後の年度)に除幕された、角島小学校百周年記念の「惜陰の碑」(右）と、その左上に切り出して載せたのは角島小学校の校歌です。角島小学校の前身は明治7年、別の場所に「惜陰小学校」として開校し、明治29年に「惜陰尋常小学校」、昭和16年に「角島国民学校」となりました。

 ところで光田さんの就任当時、角島小には校歌がなく、光田さん自ら校歌を作詞(作曲/竹中光恵氏)しています。校歌となった年は不明ですが、なかなか角島の特徴をとらえているように思います。

 一、ひびきの灘の 波白く/はまゆう香る この丘に/集う海の子 たくましく/陽やけのからだ きたえあう// 二、直(なお)く明るい 万葉*の/あつい情けを うけついで/むつみの島に 海の幸/守る若木が 伸びている// 三、行く手を照らす 燈台の/光のように この国の/明日の栄を ひらく道/手をとり合って きょうも行く

*注) 角島には特産のわかめを人になぞらえた万葉歌があり、小学校右手の丘に歌碑がある。
「角島の 迫戸(せと)の稚海藻(わかめ)は 人のむた 荒かりしかど 我がむたは和海藻(にきめ)」

 登山をする光田さん(光田氏アルバムより)/長門愛瓢会ﾒﾝﾊﾞｰと光田(後列左)さん(羽仁家ご遺族提供) 

  光田さんの趣味には登山、瓢箪作り、俳句等がありました。左写真は退職後、みすゞと出会う昭和58年3月頃に、登山仲間の水津百合信さん等と出かけた登山の様子です。

 光田さんと水津さんは、羽仁雅助さん率いる長門郷土文化研究会のメンバーで、かつ長門みすゞ会の仲間でもありますが、特に山登りでは水津さんと長門わらじ会という同好会にも入っていました。春には山うどや、わらびなど山菜採りも兼ね、それが山歩きの楽しみでもあったようです。昭和59（1984）年7月にはみすゞの詩にも出てくる「桂木山」にも登っています。

  ひょうたん作りは、羽仁さんの最大の趣味でしたが、光田さんも水津さんもその愛瓢(瓢友)会のメンバーで、右写真の前列左端が羽仁さん、後列左端が光田さん、その隣が水津さんです。このように山登り以外、三人はいつも行動を共にしていました。
 そういえば光田さんが、羽仁さんの愛瓢ぶりを茶化して作った、『瓢奇智老(ひょうきちろう)』という、「お山の杉の子」の替え歌が残っています。少し長いですが掲載しておきましょう。

「一、長門の国の藤中の/三径庵は丘の上/ ひょうたんじいやが/おったとさ/おったとさ// 瓢奇智老と自称して/畑をつくり苗育て/精根こめてとりくんだ/ひょうたんづくり/十余年/十余年//
 二、あるとき奇瓢に意をこらし/いろんな形にひょうたんを/つくってみたけど/だめだった/だめだった/けれどもだんだん上達し/へちまのような長兵丹/大きな兵丹 小兵丹/みんな見事に/できたとさ/できたとさ//
 三、それをみがいて工夫して/ひょうたん容器のかざりもの/コロコロ並べて/ぶらさげて/ぶらさげて/瓢史をたずねて先達の/瓢箪人生学んでは/愛瓢学を世に広め/ひょうたん博士に/なったとさ/なったとさ//
四、やがて見にきた物ずきが/ちょっぴり兵丹ほしくなり/作ってみたいと言いました/言いました/しだいに仲間がふえてきて/ひょうたんひょっこりコマが出て/瓢友会が誕生し/瓢奇智老は/にっこにこ/にっこにこ」

 いかがでしたでしょうか。光田さんのユーモアある作詞により、羽仁さんの凝り性な性格や、瓢箪を通じての仲間との交遊の輪が見えてきて、なかなか味わい深い歌詞ではなかったでしょうか。こういった仲間との結束が、後の「松を育てる会」や「長門でのみすゞ調査」に生かされていったように思います。 
その辺りの詳細は、羽仁雅助さんの項も参照ください。

 矢崎先生の取材に同行して(S58 水津氏資料)  

  そして話は矢崎氏の「長門でのみすゞ調査依頼」に移ります。当初この依頼は、下関から仙崎に推移した「みすゞ捜し」のつながりで、極楽寺さんへ話が行ったのですが、極楽寺さんもまだ小さな子を抱え身動きがとれず、吉岡住職から長門郷土文化研究会へ調査が依頼され、昭和58(1983)年3月22日に羽仁さん、光田さん、水津さん等のﾒﾝﾊﾞｰ が矢崎節夫氏と会見したのでした。
  光田さんはこの時、極楽寺さんに「私がしようね」と話されたそうです。その言葉通りそれ以来、光田さんは長門でのみすゞ調査の最大の功労者となりました。

　光田さんがみすゞの調査や、その後のみすゞ会の立ち上げ、みすゞの啓蒙活動、みすゞのガイド等で最大の功労者となったのは、もちろんみすゞの詩に心を動かされ「郷土の者として最大の協力をすると誓った」ことがあるのですが、他にもそれを成せる重要な側面があったからかと思います。退職した身で独身であったこと。光田さんは長男で若くして父を亡くし、母の面倒を見る立場でしたが最後に勤めた滝部小学校長時代に、その母が亡くなられ当初はまだ自由に動けたからです。（それでも親族の用事がある時は、みすゞ優先で不評を買っていた様でした。）そして仲間の羽仁さん、水津さんは、実は自動車の運転が出来なかったということもありました。

 これは生前、水津さんからお聞きした話ですが、調査には光田さんの車が使われ、羽仁さん(写真左端)矢崎氏(後列中央)と水津さん(右端)が同乗して行くのですが、先輩格の羽仁さんが「そこを右、そこを左」とか運転もできないのに指図するという、なかなかにぎやかな道中だったそうです。

 金子みすゞ童謡抄 (水津氏資料)      

  さて前述のように、光田さんは自身でも作詞や句作をされるという素養がありました。ですからそういった点でも、みすゞの詩の世界をより深く感じ惹かれていったように思います。

　水津さんの項でも紹介していますが、こちらが光田さんが公民館の老人大学のために作った、みすゞ詩の手作りテキスト「金子みすず童謡抄」です。
  掲載されている詩は「お魚」「大漁」「つゆ」「繭と墓」「仙崎八景」など全18詩で他に与謝野晶子や坂村真民の詩も紹介しています。
右端にその表紙部分だけ拡大しましたが、親しみやすいようこのような絵が、文中にも挿入されています。光田さんはこういう講座を通して、みすゞの詩を何度も紹介していきました。

  驚くべきことはこの講演の日付が、昭和58(1983)年5月19日だということです。つまり、みすゞ調査を依頼されたのが同年の3月22日なのですが、それからふた月ほどでこの手作り冊子が完成し、最初の講演が行われたということです。光田さんがいかにみすゞ詩に感銘し、詩の啓蒙にも力を注ごうとした思いがわかる貴重な資料です。

   「教育実践」(昭和60.7)  と  長門みすゞ会略歴メモ (光田氏資料) 

  そして羽仁さん、光田さん、八道さん、重山さん、松本さん等を中心に長門みすゞ会(長門みすゞの会)の発起人会が、昭和58(1983)年6月10日に開催されます。事実上の長門みすゞ会の誕生で、光田さんが会長に就任しました。

　当時の様子を、光田さんが寄稿した山口県教育会発行の「教育実践」(昭和60.7月号)の「長門みすゞ会」という記事、及び「長門みすゞ会略歴」から、活動内容の一端を追ってみたいと思います。

 『・・テル(みすゞ)さんの時代を知っている年配の人たちに郷土文化研究会の数人が加わって、みすゞに関する資料を探したり、話しあったりしているうち組織的活動の必要を感じて、五十八年六月にみすゞ会として発足した。
 矢崎氏のお手伝いをすることが主目的であったが、みすゞの童謡をもっと深く読むことによって、いまの世に少しでもうるおいのあるやさしさ、あたたかさを求めたいと思った。』

 そしてメンバーは、市内の読書サークル等に案内状を出し、会員を募っていきます。
『そのうち、(金子みすゞの)全集出版の意向を聞きその方に全力を注ぐことにした。それには郷土の人にひとりでも多くみすゞを知っていただくこと、同時に全集の予約をしていただくこと、その活動として矢崎氏からかりた資料をもとに各種の会合でみすゞを紹介した。四十数編の童謡をおさめた手作りの童謡集を数回にわたって七百部ほど作成して配った。この小さな童謡集はみすゞを広めるのに最も有効であった。』

 その全集出版記念祝賀会は翌・昭和59年3月10日と決まり、前年の11月時点で全集予約目標が300冊のところ、まだ半分以下の135でした。最終的には目標数を超えたようですが、会員には他にも赤碕山に建てる「露」の詩碑の件、出版記念祝賀会の準備等、多忙な日々が待ち構えていたのでした。

  金子みすゞ全集(限定板) と 別冊・思ひでの記  

  そして翌昭和59(1984)年に「金子みすゞ全集」が発行され、3月10日、長門で全集出版記念祝賀会が招待者多数を招いて、華々しく開催されます。写真はその時発行された1000部限りの限定版の「金子みすゞ全集」と、付属の「思ひでの記」で、現在の新装版と、付属の「金子みすゞノート」に相当します。

  ただし限定版の「思ひでの記」は新装版とは若干違い、全集刊行にあたって寄稿された関係者の文がある点が違います。その中にはみすゞ調査を手伝った方たち、長門では羽仁さんの「仙崎八景」、光田さんの「みすゞの足跡を辿って」、みすゞの小学校時代の恩師・大島ヒデ先生の「金子みすゞさんの思い出」、という文章が入っています。
 その後みすゞのことが詳しく書かれた「金子みすゞの生涯」が刊行されたのは、9年後の平成5(1993)年2月になります。ですからこの「思ひ出の記」にある、光田さんの記事や大島ヒデ先生の記事は、当時 みすゞの人となりを知るには貴重な文章でした。

 光田さんはその文中で、みすゞが子供の頃よく遊びに行っていた大日比の、みすゞより12歳年上のいとこ(前田リンさん)の話や、みすゞの晩年に下関で一番親しかった一歳年上のおばあさん(みすゞのいとこの高橋家に嫁いだ高橋歌子さんのこと)等から聞いた、みすゞのプロフィールをつづっています。

 そして光田さんは記事の末尾には、『郷土のものとして、少しでもお手伝いをしなければ申し訳ないと思って、・・』と、書かれています。前述したように調査に同行したメンバーの中では、光田さんが唯一車の運転ができたということもあって、現地調査に一番力を発揮され、また矢崎氏を通じた全国からのみすゞファンの案内もされていたのでした。

 昭和59年11月毎日新聞記事(吉岡氏資料)    と    昭和60年2月 毎日新聞記事(水津氏資料) 

  その頃の新聞記事を紹介しましょう。まず写真（左）ですが昭和59(1984)年の11月頃のスクラップ記事に、光田さんの写真を載せた記事があります。

『・・「きょうは"みすゞ天気"でありますいの」。元小学校長、光田英一(64)は透きとおるような青空を仰いで言った。
「実はね、矢崎節夫さんを案内したり、古老から聞き書きするなど私がみすゞのことで動き回る日は必ずよい天気になるんです。

　それに、みすゞのことで問い合わせの電話があった時、私が留守だったことは不思議と一度もない。これは"みすゞ電話"です」。「長門みすゞの会」の会長、光田は、故郷が生んだ童謡詩人・金子みすゞに大変な入れ込みようである。』といった記事で、みすゞのことを話す時の光田さんの、うれしそうな様子がうかがえる記事です。

 そして右写真は翌・昭和60年2月のもので、3月10日の「合同みすゞ会」開催を知らせる記事です。
『・・金子みすゞの名声は昨年、五十五回忌を期して全集が出版された前後から驚異的な勢いで広がった。出身地の仙崎はもちろん、下関、宇部市にも「みすゞ会」が発足したのをはじめ、県教育会発行の選集も根強いブームを呼び、ファンは膨らむ一方。また東京ではその詩がメロディーにもなり、静かな波紋を広げているという。こうした反響に感動した地元の「長門みすゞ会」が、二十六歳の若さで一人娘を残してこの世を去ったみすゞを弔うとともに「心の荒廃が進むいまこそ、みすゞの祈りを伝えよう」と、今回の企画を思い立った。』

　とあり、地元ならではの心意気で全国のファンを受け入れる「長門みすゞ会」のメンバーの意気込みを伝えています。実際の合同みすゞ会の様子は、水津百合信さん、山田秀雄さんの項を参照ください。そんな訳で長門みすゞ会のメンバーは、本来の活動の他、当日の受け入れや運営準備に忙殺されることになります。でもそれはうれしい忙しさであったり、地元の自分達がやらねばという強い使命感があったことと思います。

 昭和60年9月 朝日(?)新聞記事(水津氏資料)

  そして半年後の昭和60(1985)年9月の新聞ですが、長門みすゞ会会長・光田さんの「みすゞのふるさと」という随想が載っています。

『・・存在するあらゆるものに対しての深い愛とかなしみ、そんな慈悲心ともいうべき思いがどうしてみすゞのなかに育ったのか。郷土にその要因はないかと問われる。これは難問である。人の深い心の成因を探るということは。でも、その片りんでもたずねてみたい。・・』

　『みすゞの心象風景をつつむ情感も、ふるさとの風土につちかわれたものであろう。仙崎は(中略)町の中に寺が六つもある。墓地も広い。その墓を仙崎の人は今も大事にする。毎日のようにお参りして供花を絶やさない。信心深い人が多く、少し前は家々から読経の声が流れていたそうである。
 そういう風習といったものを生んだ一つに、大日比三師と称されるなかのひとり、西円寺の法岸和尚の業績がある。・・』

『・・私の母は仙崎人*1であるが、無益に殺生しないことは少し度を越していると子ども心に思った。北九州に居たころ、遠くの海に行き 磯の小貝など採って帰ると、今日は命日だからと、海に戻しに行かされた。やたらと命日があって必ず精進する。
 命日でなかったら、ナベに入れて念仏を唱えながら煮るものだから、小さい生命を奪うことの罪悪感は心にしみる。母が特別であったとは思えない。仙崎の人たちには、ごく当たり前のことであったのであろう。あるいは、ひと昔前は日本のどこでも普通のことであったのかも知れない。』

『みすゞは、祖母、母から受けた感化も大きいと思われる。二人ともだれからも慕われる、やさしい人であったそうで、ただ、みすゞの特別の感受性が深い受け取り方をしたのだろう。・・』
と、みすゞのふるさとの信仰の厚さや歴史、母から教わった慣習などを通し、みすゞの精神性について地元人ならではの考察を述べています。

*注1) 母・キタさん、青海島・青海地区出身。

 金子みすゞ 詩碑 「王子山」 と 金子みすゞ顕彰会員募集「趣意書」(水津氏資料)  

  さて、左写真はこれまでも紹介している昭和62(1987)年3月10日に除幕された、金子みすゞの「王子山」の詩碑です。
この詩碑建立運動は、新たに「金子みすゞ顕彰会」を生むきっかけとなりました。

　右はその会員募集の趣意書で、金子みすゞの紹介とその拡がりを伝えた後・・
 『・・はるばるみすゞのふるさとをたずねて来られる方も多くなりました。そういう方たちにも、みすゞの詩の心にふさわしい、好感を持っていただける顕彰のあり方は、どうあるべきかを考えなくてはならないと思います。
 (中略) そのようなことから、広くみなさんのご協力を得て、顕彰の事業にとりくむ会を組織する必要があると思って発起致しました。・・』昭和六十一年八月

　と、書かれ発起人23人の中には、光田さんはじめこのシリーズでも登場する、竹内三郎さん、山田秀雄さん、水津百合信さんの名があります。この頃 光田さんは「金子みすゞ顕彰会」を設立する思いについて、次の様に話しています。

　『みすゞ会があるのに、どうしてこの会をと、お思いの方もおられるのではないかと思いますので、みすゞ会について簡単にお話いたします。・・その(矢崎氏の)熱意に感銘して、郷土のものとして何かお手伝いしたい。同時に私たちもみすゞのことを、もっと知りたいと思ってつくった会です。ですからテルさんの時代を知っている、年配の方が多く、7月末現在で平均年齢68才です。(中略) ですから顕彰碑のこと、商品化(に対する)対応、みすゞにちなんだ各種行事を、立派にやっていける会が出来たらこの上ないと思っています。』

　かくして金子みすゞ顕彰会は、金子みすゞ詩碑建立賛同者を中心に、市内外から会員を集め、昭和61(1986)年10月4日に設立総会が開催されます。ただし光田さん始め、多くのみすゞ会のメンバーはこの顕彰会にも属し、顕彰会が出来た後もみすゞ会の活動を継続してゆくのでした。そして顕彰会の最初の大事業が、この金子みすゞ詩碑「王子山」の除幕式だったのでした。

 金子みすゞ 詩碑 「王子山」の副碑  

  写真は詩碑「王子山」の前面にある副碑で、童謡詩人「金子みすゞ」の説明と、「王子山」詩碑建立の由来が書かれています。「王子山」の詩とこの説明文の一部を抜き出してみます。

『・・銀の瓦と石垣と/夢のやうにも、霞んでる。/王子山から町見れば、/わたしは町が好きになる。・・』(王子山)

『金子みすゞ  大正後期の童謡界で活躍し、西條八十に「若き童謡詩人の中の巨星」と期待されながら 二十六歳の若さで世を去りました。(中略・・みすゞと全集出版の経緯・・)すべてのものにやさしいまなざしをそそいだみすゞの童謡を、多くの人に知っていただきたく、ここに碑を建てました。「王子山」の詩は、みすゞが思郷のこころで自ら選んで詠んだ「仙崎八景」の中の一つです。  一九八七年三月金子みすゞ顕彰会 』

　と、この副碑にある説明文を書いたのが、光田さんなのでした。光田さんは何度も文章を推敲したようで、最終敲の前段階では、「みすゞの童謡・・」以下が、「みすゞの童謡は、いま、多くの人の心に静かに深くひびきはじめています。」とあります。

 金子みすゞ仙崎八景案内図   と  鉄塔があった頃の弁天島(光田氏資料)  

　図（右）は「王子山」詩碑の除幕の日、同時開催された「仙崎八景めぐり」の説明に使われた案内図ですが、その中のみすゞ紹介文にも光田さんの文章が使われています。

　この「仙崎八景めぐり」のイベントはみすゞ会の時代にもありましたが、顕彰会となって案内図がカラーになったと同時に、その中の弁天島に鉄塔が写っている、今となれば貴重な写真がありましたので、左に拡大して載せておくことにします。

 まず案内図の各写真ですが、「花津浦」「弁天島」「小松原」「極楽寺」「波の橋立」「大泊港」「祇園社」の写真に加え、「王子山」の詩碑と八王子山の「王子社」、そして「金子みすゞの墓」の全部で10枚の写真が載っています。
 そして前述したように、当時の弁天島には漁業無線のアンテナ鉄搭がありました。島田陽子氏の「金子みすゞへの旅」の昭和63年3月の記述にも、このアンテナのことが出て来ますので、記録として引用しておきます。

『弁天島はいま、囚われの島といいたい状態だ。戦後の仙崎湾築港工事で防波堤の一部にとりこまれてしまった。その上、弁財天の小さな祠の横にロケットのような高い鉄塔がそびえ、どうしようもなく窮屈そうに見える。描いていたイメージとはかなり違っていた。』

当「金子みすゞの旅」本文の「弁天島」にも、関連記事を載せていますので参考にしてください。

 「わたしと小鳥とすずと」と「金子みすゞの童謡を読んで」審査委員会 案内ハガキ (光田氏資料)  

  水津さんの項でも書いていますが、昭和59(1984)年3月、長門にて金子みすゞ全集の出版記念会が行われると、この動きは教育界にも波及し、全集を抜粋した山口県版「わたしと小鳥とすずと」(写真左)が、山口県教育会の依頼により同年8月20日に刊行されました。

　この本は山口県内の小中学校に配布されて、生徒児童の国語教材のサブリーダーとして活用され、若年層にもみすゞを広める役割を果たしました。ところでその中にも長門みすゞ会の話が出てきます。

 『・・金子みすゞ全集が発行されると、やさしさ、素直さ、愛にみちた彼女の詩は、大きな反響をよびました。ふるさと長門市には、みすゞの詩と生涯を研究しようという、みすゞ会が生まれましたし、東京の新聞も、みすゞの詩の奇跡のような出現を、大きく報道しました。みすゞの詩は、それほど大きなねうちを持っていたのです。』
『 山口県が生んだすぐれた詩人とその作品を、わかいみなさんが理解してほしい、山口県教育会は、そういう願いをこめ、本書をつくりました。』

 こうして山口県内の学校にも金子みすゞは浸透していったわけですが、ことにふるさと長門の小学校では長門ロータリークラブさんの呼びかけで、「金子みすゞの童謡を読んで」の読書感想文コンテストが、昭和62(1987)年度から開催されるようになりました。

 そして光田さんにも審査委員の声がかかりました。右のハガキはその審査会の案内状です。その時長門市はまだ合併前でしたが、長門市はじめ大津郡下の小学校の高学年児童に呼びかけ、全141点もの感想文が集まりました。おそらく光田さんも児童の作文を読み、郷土の子らに広がってゆく「みすゞの詩」を実感していたことでしょう。この催しは現在も続いています。

 昭和63年度県民大学講座 児童文学・絵本研究講座(光田氏資料)  

こちらは昭和63(1988)年度の「(山口)県民大学講座」の開催案内で、こどものため児童文学・絵本を読み聞かせたり、こどもとふれあう場を提供する大人向けの講座内容となっています。

　8回にわたる総勢12名の講師による講座内容ですが、光田さんも「金子みすゞの童謡」の講師を務めました。光田さんがどんな話をしたか、少しは感じられるかと思いますので、その時取り上げたみすゞの詩を列挙しておきます。

「大漁」「積った雪」「露」「砂の王国」「つばな」「硝子」「私と小鳥と鈴と」「繭と墓」「お魚」「星とたんぽぽ」「日の光」「八百屋のお鳩」「瀬戸の雨」「角の乾物屋の」「木屑ひろひ」

 といった詩のラインナップでした。ところで前述した「金子みすゞの童謡を読んで」の審査委員の時もそうでしたが、この時も光田さんは「金子みすゞの会」会長としての立場で講演をされています。

 すでに「顕彰会」の副会長という面もあったわけですが、「顕彰会」のもつ役割とは少し異なるこういう講演では、立場を切り換えていたようです。いうなれば「みすゞの作品や心により深くふれ、それらを伝えて行く」といった部分が、「長門みすゞ会」の目指す所だったように思います。

 日本児童文学 H.1(1989).9 (特集 童謡詩人 金子みすゞ 没後60周年)  

  さて、翌・平成元(1989)年の「日本児童文学」9月号に、光田さんの寄稿文が掲載されています。光田さんは全集出版時の「思ひでの記」の中で、『みすゞは誰からもきらわれなかった。けれども心の底から打ちあけて語れる友はいなかったのではないか、(中略) 童謡を投稿していたことを知っていた同級生には逢わなかった。』

  と、いう記事を書いていますが、その後の調査の成果によりそれを打ち消し、大津高女で同級生だった心の友・田辺豊々代(ほほよ)さんの妹を訪ねた時の記事を書いています。

　『・・この四月(平成元年)矢崎氏と、その妹さんをたずねた。妹さんは年はだいぶ離れているが遠い記憶をたどりながら、当時の二人の友情の深さを語ってくださった。・・(二人の) 在学中の仲は言うまでもなく、退学後も頻繁に文通し、ともに中央の雑誌に投稿してはげましあっていた。』 

 その外、光田さんはみすゞの詩についても、以下の様に考察しています。
『みすゞは歌われることをあまり意識しないで創作したのではないだろうか。童謡として書いたし、リズムもあるが、どちらかと言えば読む童謡と言える。それだけに調律にとらわれることなく、自由に詩の心を表現できたと思う。(中略)みすゞのやさしさは、対象と一体となってその心情にも共感する非常に広い、柔軟な心で他の童謡詩人に異質のものと思う。』

　以上「みすゞの会」で朗読会を催したり老人大学や各種講座などで、みすゞ詩の講演をした光田さんならではの、みすゞへ洞察が感じられる文章ではないかと思います。

 鯨墓を案内する光田さん (S60.4)  (水津氏アルバムより)

  写真は青海島の鯨墓にてテレビ収録があった時の様子ですが、後ろにいる背広姿が光田さんです。この時は番組の収録という珍しいケースでしたが、光田さんの元にはみすゞのふるさとを訪ねたいと、多くのファンからのガイド依頼が入りました。

　ほとんどは事前に予定が分かっていたようですが、時には当日に市役所経由などで依頼が入り、みすゞガイドをすることもあったようです。
  そんな時光田さんはいつも時間の許す限り、ボランティアでガイドを引き受けていました。みすゞに詳しく、とっさに体の自由がきくような人は光田さんの他、そんなにいなかったからです。

　ある年の「日本児童教育振興財団の作文コンクール」に、そんな光田さんにガイドをしてもらった、中学生Sさんの文章があったので引用してみます。

　『・・そこで私達は、長門みすゞ会の会長をなさっている光田英一先生を紹介していただいた。(中略)(先生は)突然の訪問にもかかわらず、私達を気持ち良く迎えて下さり、お忙しいなか、道案内を約束して下さった。私達は市役所の内山さんからいただいた仙崎の六十年前の地図を片手に、光田先生に連れられて、みすゞの息遣いの感じられる遺物を求めて歩き回った。』

　『・・ここは当時、馬つなぎ場だった所だ。(中略)「以前、みすゞの詩に出てくる動物について調べたことがあるんですが、馬が一番多かったですよ。みすゞは、よくここで馬を見ていたんでしょうねえ。」光田先生が、しみじみとおっしゃった。』

 『この馬つなぎ場の南隣にあるのが、重山さんのお宅だ。重山さんは、金子家の親戚に当り、現在みすゞの墓の墓守をなさっている方だ。私達は、先生について、重山さんのお宅の玄関先に立った。汗をふきふき訪れた私達を、奥さんは、冷たい梅ジュースと梨で迎えて下さった。・・』

　と、言う感じで内容をかなり間引いていますが、光田さんの熱心なガイドにより、初めて来た仙崎でみすゞの息吹に触れることが出来たようです。
ところで文中に出てくる重山さんですが、主人も奥さんも熱心なみすゞ会の会員でした。当時みすゞ通りには喫茶店もなく、光田さんが暑い盛りの休憩にと、重山家へ誘ったことと思われます。

 上山文英堂付近   と   調査途中の間取り図(光田氏資料)  

　光田さんは、みすゞゆかりの建物の間取り調査も行っていました。写真は下関市の明治安田生命下関ビルですが、この左手あたりに母の再婚先で、後にみすゞも同居していた本屋の上山文英堂がありました。

　そして右の図が、かつてここで働いていた藤田初一さんや丸茂(まるも)寛治さんから、光田さんが聞いて図面にした店舗の間取り図です。

　実際にはこれにみすゞの弟である上山雅輔さんの修正等が入り、より詳細になってゆく訳ですが、とにかく人の記憶にある家の間取りをこうして目に見える形にしてゆくことは、大変な作業だったことが想像されます。

 でもこうした地道な取組みによって、みすゞの暮らした生活空間がより深く見えて来ます。光田さんは他にもみすゞが育った、仙崎の金子文英堂の間取りも調査しており、それは現在みすゞ通りに建つ金子文英堂の店舗として復元され、そこでは二階にあるみすゞの部屋まで見ることができます。

 「ミサヲ」第十ニ號 (大津高校)

  （以下ミサヲ記事）「卒業生通信」
（一）日常状況　（二）趣味　（三）感想（四）其の他（到着順）
○　第八回　宮本テル　『なんとお答致しませう。唯子供が一人それが初めでそれが終わりで御座います。あの頃日輪の高さにまで翔つた空想も今は翼を失ひました。残つた者は一人のおろかしい「母」それだけでございます。變らないのは昔ながらの本の蟲書物の頁の中より外の世界は知らうともしないのです。日向で子供と遊ぶのと灯影で本を擴げるのとさゝやかなでも清らかな幸福がそこにございます。
 忙しい町中のしかも活動常設館と市場との間に住んで煩らはしい商賣をしてゐまして��草の匂と共になつかしむ遠いその日の方たちの御消息こそ伺ひたいものでございます。』

　他の投稿記事からみて、この文章が投稿されたのは昭和4（1929）年8月頃と見られ、投稿した住所「下関市新地町一一九」もわかりました。翌年3月にみすゞは亡くなってしまうので、こういった文章は当時の心境を知るうえで貴重な発見なのでした。

 金子みすゞの講演記事　

  さて、ここまで光田さんの活動の軌跡を見てきましたが、残念ながら光田さんの講演記録は、ビデオ映像はもとより、下書きの原稿も見つかっていません。もちろん「みすゞ童謡抄」等のテキストは存在するのですが、個々のみすゞさんの詩について光田さんはどんな講演をされていたのでしょうか。探してみると「金子みすゞ全集」が出版された翌年の昭和60（1985）年の長門ロータリークラブでの講演が、「卓話抄録」（写真）という形で残っており、記事の後半に数編の詩が記録されていましたので、概要を記録しておこうと思います。

  『大漁・積もった雪』　この2編が東大の入試に出ました。（中略）「大漁」は、みすゞ探しのきっかけとなった詩ですが、大羽鰯のシーズンには、午後11時ごろから朝まで、海辺にずらっと舟が並んで水揚げしたそうで、１キロ近い海岸にガス灯がともり、男も女も総出で働く様子は、まさに壮観であったでしょう。そういうことを聞いて「濱は祭りのよう」というイメージがいっそう鮮明になります。「積もった雪」は読んで誰もわかりますが、雪にも人間と同じいのちあるものとして語りかける、みすゞ独特の世界を感じます。

  『硝　子』　東京のあるディレクターが「この詩を読んでよかった。私の今までの人生はガラスをまき散らして来た、今からはガラスを拾って歩くよう心掛けよう」と言われました。みすゞの詩は時にふと自分をふりかえさせる。罪悪深重などと説教はしないが、説教された思いがする詩があります。

  『木屑ひろひ』 みすゞ会のつながりで知った朝鮮の方がいます。「全集を寝ころんで読んでいて、この詩にあったとき、思わず正座して読んだ。昭和初期朝鮮人にこんな思いをよせた人はいない。みじめな仕打を受けてきただけに強くうたれた。・・気軽に読んでいたが、この人はしんからやさしい人だと思った」と話されました。

　みすゞは動植物はもとより、雪や土や雲にも一体化して、その心情をうたいます。存在するあらゆるものに共生感を持つ世界は、宮沢賢治の世界に類似しているように思います。みすゞは誰の心にもあるのですが、（それは）くもったり、沈んだりしています。科学文明の発達は、そのかげで多くの尊いものを失い、それに気づいた人々が「物から心へ」と省りみはじめた時、みすゞの童謡の世界は多くの示唆を与えてくれるものと思います。（以上）

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 おわりに (金子文英堂・みすゞの部屋)

  以上、光田さんが退職後の人生を捧げたといっても過言でない、長門でのみすゞ甦りの日々および功績の一部を見てきました。もちろん仲間の協力等もあったわけですが、光田さんのみすゞ甦りについての強い思いと地道な努力が無ければ、このように短時間で長門でのみすゞ調査が進んだり、地元での認知度も上がらなかった事でしょう。

  冒頭プロフィールタイトルに書いた、光田さんの言葉「みすゞさんは恋人」とは、おそらくその熱心さと独り身を冷やかされ、とっさに口に出た言葉のような気がします。でも心の内では自慢の恋人を、もっともっと世間に知ってもらおうと、頑張っておられたのではないでしょうか。

  残念ながら光田さんの消息記事は、平成4(1992)年8月20日発行の「みすゞ通信」に、記事が出て以来つかめていません。島田陽子著 「金子みすゞへの旅」によれば、その年の春先に体調をくずしていたようです。水津さんのアルバムに登場する光田さんの姿は、平成5(1993)年3月10日の第65回みすゞ忌の集合写真を最後に、その後はアルバムも途切れていることもあり、以降の確認はできていません。
　光田さんは自分の体力のこともあり、みすゞの認知度も十分となったこの頃から、表舞台より身を引きはじめたのかも知れません。晩年は脳溢血で入院しておられました。

 そして光田さんは平成11(1999)年1月9日、78歳で亡くなられました。ですから平成12年から計画された、みすゞ記念館と金子文英堂の復元のことは知りませんでした。ということで最後の写真は、光田さんへ感謝の意味を込めて金子文英堂二階のみすゞの部屋を載せてみました。この部屋を見たら光田さんは、どんな感想を話されたことでしょうか。
　いやそれ以前にみすゞさんとは、すでに天国で会って、よもやま話に花が咲いていることでしょう。

 この記事における写真及び資料につきましては、今回も水津さんの資料より多くをお借りしました。そして有り難い事に光田さんのご遺族・羽仁雅助氏ご遺族からも、貴重な資料の提供を受けることが出来ました。また当記事の作成にあたり、藤井文則様にはひとかたならぬご援助を頂きました。ここに深く感謝を申し上げます。